お前の好きな奴は誰だ?
そう訊ねると彼は赤い頬をさらに赤く染め上げ、赤茶色の髪をふわりと靡かせながら、誰もを魅了させるような笑顔を作り、それから遠くを……ただ一点を見つめた。(正確に言えば唯一人を、だが)彼の視線の先には彼の小さい頃からの親友であり、まるで絵本のおとぎ話からそのまま出てきたかのような麗しい王子様の姿がそこにはあって。優しい優しい民から好かれるみんなの王子様。……そして俺がダイダイダイダイッキライな貴族様。ああ、なるほど、そういうことね。そいつがお前の愛しい王子様ってわけね。分かった分かった。それなら、
ぐちゃり
お前の好きな奴は誰なんだ?
すると彼は血を分けた、けれども彼とは全く反対の青い髪色をした弟のところに走っていく。穏やかな瞳をして、愛しい人でもよぶかのように優しく弟の名前を呼んで……あぁあああ、ダメだダメだダメだ、兄と同じ血が自分の体内にも入ってるというのにお前はそれでもまだ物足りないというのか!!さらに血を分けた兄に対する暴言の数々。許せない。許せない許せない許せない。兄弟同士なんて、許せないだろそんなの。だから俺が終わりにしてやるよ。
ぐちゃり
さて、もう一度聞くぞ、お前の好きな奴は誰だ?
すると今度は彼の大好きな大好きなだーいすきな隊長の名前をひっきりなしに呼び始める。隊長。フレン隊長
フレンさん。フレン。自分の幼馴染みであり彼の上司でもあるフレン・シーフォという名前の男。部下であるアスベルからこんなに慕われるなんて、フレンもすみにおけないな、なんて。下町の連中からも、仲間からも、エステルやヨーデルみたいな王族からも慕われて、フレンもさぞ鼻が高いだろうに。
……でも、もう十分だよな?もう十分、愛されたよな?そろそろ俺にも分けてくれよ。親友だろ?な?フレン
ぐちゃり
「アスベル、お前の好きな奴は誰だ?」
すると彼は泣きながら俺の名前を叫ぶ。ああ、やっと。やっとわかってくれたんだ。俺の努力も漸く報われた。
「ユーリ……ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ……」
「分かった、分かったから。俺がずっと隣にいてやるからさ」
「ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…」
「俺はお前の前から消えたりしない。約束だ。だからお前も、俺以外のやつなんか好きになるんじゃねぇぞ。良いか?」
「ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…ユーリ…」
戯言のように自分の名前を繰り返すアスベルがあまりに可愛くて、愛しくて、思いきり抱き締めてやる。これからは俺が、俺だけがお前を愛してやるからな。他のやつらなんてもう見るんじゃねぇぞ。……もし、お前がまた他のやつを愛したりなんかしたら……
その時は、
「俺はまたそいつを殺しちまうよ」